
元気だった愛猫が突然痙攣(けいれん)し、ぐったりする様子を見て驚く飼い主さんは多いことでしょう。低血糖は、命の危険や後遺症の可能性もある病気です。子猫に多く起こりますが、基礎疾患や栄養状態によっては成猫や老猫でも発生する可能性があります。猫の低血糖を理解し、いざというときに適切な対応を取れるように備えていきましょう。
もくじ

猫の脳や身体の細胞が正常に機能するためには、エネルギー源となる「ブドウ糖(グルコース)」が不可欠です。
通常、猫の正常な血糖値は70〜150mg/dLの範囲にあります。
血中のグルコースが消費されると、ガソリンのタンク役である肝臓に蓄えられたグリコーゲンが分解されたり、アミノ酸などから新たに糖を作り出す「糖新生」によってグルコースが血中に補充されたりします。
この「消費」と「供給」のバランスが崩れ、血中のブドウ糖濃度が基準値を下回ると、低血糖を引き起こします。
低血糖はあらゆる年齢の猫で発生する可能性がありますが、原因やリスクは、年齢によって異なります。
低血糖は、特に子猫によく見られる症状です。子猫は消化機能などの身体機能が未発達なため、空腹や寒さなどの環境的な要因が低血糖の引き金になるケースが多いです。
成猫の低血糖には、腫瘍や臓器不全などの重篤な病的疾患が潜んでいる可能性が高くなります。
生後数か月までの子猫は、次のような生理学的理由から、成猫と比較して低血糖に陥るリスクが高くなります。
脳の唯一のエネルギー源は糖であるため、低血糖状態が長引くと脳へのエネルギー供給がストップしてしまいます。この状態が続くと、脳細胞がエネルギー枯渇で壊死し始めます。
一度破壊された神経細胞は再生しないため、失明や運動障害といった後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ったりすることがあります。

子猫の低血糖は環境要因によるものが多いですが、成猫の低血糖は、背後に潜む「病気」を見つけることが重要です。
空腹やストレス、寒冷などによる低血糖は、子猫に多く見られます。長時間の絶食や、移動などによる極度のストレスは、糖の消費を早めます。
また、寒冷環境下では体温を上げるために筋肉が震え、蓄えられた糖を急激に消費します。これにより、低血糖が誘発されます。
肝不全や消化器疾患など、臓器の機能不全も低血糖の原因となります。
肝臓は糖代謝の中心であるため、重度の肝炎や門脈シャントなどの血管異常によって肝機能が低下すると、糖新生やグリコーゲンの貯蔵が行えなくなり低血糖が生じます。
糖尿病治療中に低血糖を引き起こした場合は、「インスリンの注射量を誤った」「注射後に食事が摂れなかった」などが原因と考えられます。
また、猫自身のインスリン感受性が回復し自力で血糖コントロールができるようになった(寛解)ことに気づかず、投与を続けた場合にも発生します。
膵臓のインスリン分泌細胞が腫瘍化したもので、フェレットなどでは比較的一般的ですが、猫での発生報告は非常にまれです。
血糖値に関わらずインスリンが自律的かつ過剰に分泌され続けるため、重度で慢性的な低血糖を引き起こします。[
敗血症や中毒なども、低血糖の原因となります。重篤な全身性感染症である敗血症では、細菌や白血球が異常な量のグルコースを消費し、低血糖を引き起こします。

低血糖の初期には以下のような症状が現れます。
血糖値がさらに低下すると、脳の機能不全による重篤な神経症状が現れます。
特に、子猫が「ぐったり」している状態は非常に危険なため、迷わず糖分補給の措置を取る必要があります。
睡眠であれば、触れたり音を立てたりすれば目覚め、普段と変わらない反応を示します。しかし、低血糖による昏睡状態では、次のような明らかな異常が認められます。
低血糖は時間との勝負です。異変を感じたら、すぐに獣医師へ相談してください。受診の際は、次の情報を伝えることが迅速な治療に繋がります。

問診と身体検査の後、血液検査で血糖値を測定します。低血糖が確認された場合は、インスリン濃度測定や超音波検査などの検査を行い、原因を特定します。
一次処置(救命処置)として静脈内へブドウ糖を投与し、血糖値を回復させます。
状態が安定した後、食事や温度の環境改善、腫瘍(インスリノーマ)の摘出、インスリン投与量の再調整など、原因にあわせて個別の治療を行います。

砂糖水やガムシロップなどを舐めさせます。
飼い主さんの指にガムシロップを取り、猫の歯茎や上顎の粘膜にこすりつけるように塗布してください。口腔粘膜から糖分が直接血中に吸収されます。
無理に飲ませようとすると誤嚥し、肺炎や窒息の原因となり大変危険です。
低血糖になると体温調節機能も低下し、低体温症を併発しやすくなります。毛布で包む、湯たんぽを添えるなどして体温管理を行いましょう。
子猫の場合、1日に必要な食事量を3〜5回以上に分けてこまめに与えることが最大の予防となります。また、室温を適切に保ち、寒冷ストレスを与えない環境づくりを心がけましょう。

応急処置としての目安は、ティースプーン1〜2杯程度です。まずは少量を粘膜に擦り込み、反応を見ながら動物病院へ急行してください。
痙攣を引き起こす原因は低血糖だけではありません。てんかんなどの神経疾患、腎不全による尿毒症、中毒などでも痙攣は起こります。
見分けが難しいため、すぐに獣医師の診察を受けてください。
【獣医師監修】猫の部分痙攣(ピクピク)は病気が原因?注意すべき様子と受診見極めのポイント
根本原因が解決していなければ、数時間後に再び重篤な低血糖に陥る危険性が高いです。必ず動物病院を受診しましょう。
健康な成猫が空腹でいきなり低血糖になることはほぼありません。成猫の低血糖は、重度の疾患が隠れているサインと考えられます。
猫の低血糖は、迅速な判断と行動が生死を分ける緊急事態です。子猫と成猫でのリスクの違いを理解し、適切な予防に努めましょう。
万が一症状が現れた際は、家庭での応急処置を行った上で、一刻も早く動物病院を受診してください。