【獣医師監修】猫の低血糖とは?原因や応急処置、予防法を解説
2026.09.23 作成

【獣医師監修】猫の低血糖とは?原因や応急処置、予防法を解説

獣医師

東 一平

東 一平

元気だった愛猫が突然痙攣(けいれん)し、ぐったりする様子を見て驚く飼い主さんは多いことでしょう。低血糖は、命の危険や後遺症の可能性もある病気です。子猫に多く起こりますが、基礎疾患や栄養状態によっては成猫や老猫でも発生する可能性があります。猫の低血糖を理解し、いざというときに適切な対応を取れるように備えていきましょう。

もくじ

    猫の低血糖はなぜ起こる?仕組みとリスク

    【獣医師監修】猫の低血糖とは?原因や応急処置、予防法を解説

    猫の血糖値維持のメカニズム

    猫の脳や身体の細胞が正常に機能するためには、エネルギー源となる「ブドウ糖(グルコース)」が不可欠です。

    通常、猫の正常な血糖値は70〜150mg/dLの範囲にあります。

    血中のグルコースが消費されると、ガソリンのタンク役である肝臓に蓄えられたグリコーゲンが分解されたり、アミノ酸などから新たに糖を作り出す「糖新生」によってグルコースが血中に補充されたりします。

    この「消費」と「供給」のバランスが崩れ、血中のブドウ糖濃度が基準値を下回ると、低血糖を引き起こします。

    子猫と成猫の低血糖リスクの違い

    低血糖はあらゆる年齢の猫で発生する可能性がありますが、原因やリスクは、年齢によって異なります。

    子猫の場合

    低血糖は、特に子猫によく見られる症状です。子猫は消化機能などの身体機能が未発達なため、空腹や寒さなどの環境的な要因が低血糖の引き金になるケースが多いです。

    成猫の場合

    成猫の低血糖には、腫瘍や臓器不全などの重篤な病的疾患が潜んでいる可能性が高くなります。

    子猫が低血糖を起こしやすい理由

    生後数か月までの子猫は、次のような生理学的理由から、成猫と比較して低血糖に陥るリスクが高くなります。

    • 肝臓機能が未発達で、糖分(グリコーゲン)を蓄えるタンクの容量が少ない
    • アミノ酸などから自ら糖を作り出す「糖新生の機能が未熟である
    • 体重に対して体表面積が大きく、体温維持に多くのエネルギー(糖)を消費する

    重篤な低血糖状態をいち早く回復させなければいけない理由

    脳の唯一のエネルギー源は糖であるため、低血糖状態が長引くと脳へのエネルギー供給がストップしてしまいます。この状態が続くと、脳細胞がエネルギー枯渇で壊死し始めます。

    一度破壊された神経細胞は再生しないため、失明や運動障害といった後遺症が残ったり、最悪の場合は死に至ったりすることがあります。

    猫の低血糖の主な原因

    猫の低血糖の主な原因

    子猫の低血糖は環境要因によるものが多いですが、成猫の低血糖は、背後に潜む「病気」を見つけることが重要です。

    環境・栄養性の低血糖

    空腹やストレス、寒冷などによる低血糖は、子猫に多く見られます。長時間の絶食や、移動などによる極度のストレスは、糖の消費を早めます。

    また、寒冷環境下では体温を上げるために筋肉が震え、蓄えられた糖を急激に消費します。これにより、低血糖が誘発されます。

    内臓トラブルによる低血糖

    肝不全や消化器疾患など、臓器の機能不全も低血糖の原因となります。

    肝臓は糖代謝の中心であるため、重度の肝炎や門脈シャントなどの血管異常によって肝機能が低下すると、糖新生やグリコーゲンの貯蔵が行えなくなり低血糖が生じます。

    インスリン過剰投与(医原性)

    糖尿病治療中に低血糖を引き起こした場合は、「インスリンの注射量を誤った」「注射後に食事が摂れなかった」などが原因と考えられます。

    また、猫自身のインスリン感受性が回復し自力で血糖コントロールができるようになった(寛解)ことに気づかず、投与を続けた場合にも発生します。

    インスリノーマ(膵島細胞腫)

    膵臓のインスリン分泌細胞が腫瘍化したもので、フェレットなどでは比較的一般的ですが、猫での発生報告は非常にまれです。

    血糖値に関わらずインスリンが自律的かつ過剰に分泌され続けるため、重度で慢性的な低血糖を引き起こします。[

    その他の緊急疾患

    敗血症や中毒なども、低血糖の原因となります。重篤な全身性感染症である敗血症では、細菌や白血球が異常な量のグルコースを消費し、低血糖を引き起こします。

    猫の低血糖のサイン(症状)

    猫の低血糖のサイン(症状)

    初期症状(見逃しやすいサイン)

    低血糖の初期には以下のような症状が現れます。

    • 活動の低下(元気がなくじっとしている)
    • 歩行時のふらつきや後肢の脱力
    • 異常な空腹感(落ち着きなく食べ物を探す)

    重症化した症状(緊急性が高い)

    血糖値がさらに低下すると、脳の機能不全による重篤な神経症状が現れます。

    • ぐったりして動かない
    • 意識消失(呼びかけに反応しない)
    • 全身の痙攣や発作
    • 大量の流涎(よだれを垂らす)

    特に、子猫が「ぐったり」している状態は非常に危険なため、迷わず糖分補給の措置を取る必要があります。

    寝ているだけ?低血糖による昏睡との見分け方

    睡眠であれば、触れたり音を立てたりすれば目覚め、普段と変わらない反応を示します。しかし、低血糖による昏睡状態では、次のような明らかな異常が認められます。

    • 揺すっても目を開けない
    • 手足に力が入らずダラリとしている
    • 体温が異常に低い

    自己判断の様子見は命取り!動物病院受診のポイント

    低血糖は時間との勝負です。異変を感じたら、すぐに獣医師へ相談してください。受診の際は、次の情報を伝えることが迅速な治療に繋がります。

    • いつから症状が出ているか
    • 最後に食事をした時間はいつか
    • 糖尿病治療中であればインスリンの投与時間

    低血糖の診断と病院での治療の流れ

    低血糖の診断と病院での治療の流れ

    診断

    問診と身体検査の後、血液検査で血糖値を測定します。低血糖が確認された場合は、インスリン濃度測定や超音波検査などの検査を行い、原因を特定します。

    治療

    一次処置(救命処置)として静脈内へブドウ糖を投与し、血糖値を回復させます。

    状態が安定した後、食事や温度の環境改善、腫瘍(インスリノーマ)の摘出、インスリン投与量の再調整など、原因にあわせて個別の治療を行います。

    家庭でできる低血糖の緊急処置(応急処置)と予防

    家庭でできる低血糖の緊急処置(応急処置)と予防

    糖分補給(砂糖水・ガムシロップ)

    意識があり、飲み込める場合

    砂糖水やガムシロップなどを舐めさせます。

    意識がない、または痙攣している場合

    飼い主さんの指にガムシロップを取り、猫の歯茎や上顎の粘膜にこすりつけるように塗布してください。口腔粘膜から糖分が直接血中に吸収されます。

    無理に飲ませようとすると誤嚥し、肺炎や窒息の原因となり大変危険です。

    低体温症の併発を防ぐ

    低血糖になると体温調節機能も低下し、低体温症を併発しやすくなります。毛布で包む、湯たんぽを添えるなどして体温管理を行いましょう。

    子猫の低血糖を防ぐための食事回数と環境づくり

    子猫の場合、1日に必要な食事量を3〜5回以上に分けてこまめに与えることが最大の予防となります。また、室温を適切に保ち、寒冷ストレスを与えない環境づくりを心がけましょう。

    よくある質問(Q&A)

    よくある質問(Q&A)

    砂糖水やガムシロップはどれくらい与えればいい?

    応急処置としての目安は、ティースプーン1〜2杯程度です。まずは少量を粘膜に擦り込み、反応を見ながら動物病院へ急行してください。

    痙攣したらすべて低血糖なの?

    痙攣を引き起こす原因は低血糖だけではありません。てんかんなどの神経疾患、腎不全による尿毒症、中毒などでも痙攣は起こります。

    見分けが難しいため、すぐに獣医師の診察を受けてください。

    【獣医師監修】猫の部分痙攣(ピクピク)は病気が原因?注意すべき様子と受診見極めのポイント

    一度回復したら病院に行かなくても大丈夫?

    根本原因が解決していなければ、数時間後に再び重篤な低血糖に陥る危険性が高いです。必ず動物病院を受診しましょう。

    成猫がいきなり低血糖になることはある?

    健康な成猫が空腹でいきなり低血糖になることはほぼありません。成猫の低血糖は、重度の疾患が隠れているサインと考えられます。

    まとめ

    猫の低血糖は、迅速な判断と行動が生死を分ける緊急事態です。子猫と成猫でのリスクの違いを理解し、適切な予防に努めましょう。

    万が一症状が現れた際は、家庭での応急処置を行った上で、一刻も早く動物病院を受診してください。

    著者・監修者

    東 一平

    獣医師

    東 一平

    プロフィール詳細

    所属 株式会社アイエス 代表取締役
    アイエス動物病院(千葉県市川市) 院長

    日本小動物歯科研究会
    日本獣医皮膚科学会
    比較眼科学会
    日本獣医麻酔外科学会

    略歴 1978年 千葉県に生まれる
    1997年 麻布大学 獣医学部獣医学科入学
    2003年 獣医師国家資格取得
    2003年~2004年 アイエス動物病院に勤務
    2004年~2005年 東京都内の動物病院に勤務
    2005年 千葉県市川市のアイエス動物病院の院長に就任

    資格 獣医師免許

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