
犬の皮膚疾患の中でも特に多い外耳炎。予防のために犬の耳掃除をしたほうがいいのか悩む飼い主さんもいることでしょう。犬の耳は洞窟のように奥が深く、湿度と体温で病原菌が増えやすいです。また本来、犬に存在する細菌に対してアレルギー反応を起こす犬もいます。今回は、犬の耳の環境を適切に保つケア方法について解説します。
もくじ

定期的なチェックは絶対に必要ですが、すべての犬に頻繁な耳掃除が必要なわけではありません。これには、犬の耳の特殊な構造と、本来備わっている自浄作用が関係しています。
人間の耳の穴(外耳道)は鼓膜まで真っ直ぐ続いていますが、犬の外耳道は「L字型」に折れ曲がっています。入り口から垂直に下がり(垂直耳道)、そこから直角に曲がって鼓膜へ続く(水平耳道)という構造です。
このため、犬の耳は以下のような特徴を持ちます。
奥行きがあって空気が通りにくいため、湿気がこもりやすいです。
L字に曲がっているため、肉眼では汚れの溜まりやすい一番奥(水平耳道)を確認することができません。高温多湿な環境は、マラセチア(真菌)や細菌が増殖するには絶好の場所となってしまいます。

何か月から初めなければいけないということはなく、耳が汚れていたら耳掃除をするのが基本です。子犬の頃からスキンシップの一環として耳に触れる機会を作っておくと、スムーズに耳の洗浄を受け入れてくれる土台を作れます。
すべての犬が同じように耳が汚れるわけではありません。犬種による耳の形の違いや体質によって、ケアの必要性は大きく変わります。
特に注意深く観察する必要がある犬種をご紹介します。
ダックス、コッカースパニエル、レトリバーなどのたれ耳の品種は、耳の蓋が常に閉じている状態です。立ち耳の犬種に比べて通気性が悪く、蒸れやすい傾向があります。
プードル、シュナウザーなど耳の中に毛が密生している品種は、湿気や耳垢(みみあか)が毛に絡みついて排出されにくくなります。
フレンチブルドッグ、パグなどは構造的に耳の穴が狭く、少しの腫れや汚れで閉塞してしまいがちです。
本来、健康な犬の皮膚には自浄作用(じじょうさよう)という機能が備わっています。皮膚のターンオーバーとともに、古い耳垢を耳の奥から手前へとベルトコンベアのように自然に押し出されるため健康であれば耳垢は自然に排出されます。
しかし、以下のような特徴がある場合は、飼い主さんによる手助け(掃除)が必要になります。
皮脂の分泌が多く、ベタベタした耳垢が溜まりやすい子。
皮膚のバリア機能が弱く、炎症を繰り返しやすい子。
「汚れが目に見える」「なんとなく臭う」という場合は、すでに自浄作用が老化によって衰え始めているサインかもしれません。

耳のトラブルがなく健康な状態であれば、自宅での耳掃除は月に1〜2回程度、あるいは「汚れていたら掃除する」というスタンスで十分です。週に1回などと頻度を決める必要はありません。
重要なのは掃除よりも毎日のチェック(観察)です。スキンシップのついでに耳をめくり、「赤くないか」「臭くないか」を確認しましょう。
泳いだりシャンプーをしたりした直後は、耳の中に水が入り、外耳炎のリスクが急上昇します。水遊びの後や、湿度が極端に高くなる梅雨〜夏の時期は、週に1回程度の頻度で洗浄(クリーナーを使ったケア)をしてあげると安心です。
ゴールデン・レトリバーやラブラドール・レトリバーなど、垂れ耳で水遊びが大好きな犬は注意しましょう。
きれい好きな飼い主さんの犬ほど、外耳炎になりやすいというのは、実は動物病院の診察室でよくある話です。
犬の耳の皮膚は非常に薄くデリケートです。綿棒でこすりすぎたり頻繁に洗浄しすぎたりすると、以下のような悪循環に陥りますので過度な耳のケアは禁物です。
こすることで目に見えない傷がつきます。
頻繁な耳掃除は、皮膚を守っている必要な皮脂や常在菌まで洗い流してしまいます。
傷ついた皮膚に細菌が入り込み、炎症(外耳炎)が起こります。
炎症で耳道が腫れて狭くなり、痒みが出るため、犬が自分で掻き壊してさらに悪化します。

飼い主さんが自宅で安全に耳掃除をするための方法を解説します。かかりつけの獣医師やトリマーさんなどのプロと相談し、適切なケアをしましょう。
必ず動物病院や信頼できるメーカーの「犬用」を用意してください。手作りや代用品は避けたほうが無難です。
柔らかく、清潔なものを用意しましょう。
これが一番重要かもしれません。
最も安全で効果的な洗浄法は以下のとおりです。
クリーナー→マッサージ→拭き取り
鼓膜の異常があると行えないため、外耳炎など耳の異常がある場合は獣医師に確認をとりましょう。
では、具体的な方法を紹介します。
耳たぶを持ち上げ、イヤークリーナーの液体を耳の穴の中にたっぷりと注ぎ入れます。数滴ではなく、液面が見えるくらいヒタヒタに入れるのがコツです。
冷たいと驚くので、ボトルを手で温めてから使うとスムーズです。

液が入った状態で耳の付け根(耳の穴の下あたり)を親指と人差指で優しく揉みます。「クチュクチュ、ジュワジュワ」という音がするのを確認してください。
このマッサージによって、奥にへばりついた頑固な耳垢を液体の中に浮かせます。
手を離すと、犬は本能的に「ブルブルッ!」と頭を振ります。奥から浮かせた汚れと洗浄液を、遠心力を使って外に飛ばす重要な動作です。
耳の入り口付近に出てきた汚れと水分を、コットンで優しく拭き取ります。指が届く範囲でOKです。奥に残った水分は、数分後に犬がブルブルして出してくれるか、専用クリーナーであれば揮発(乾燥)します。

綿棒を耳の奥に突っ込むのは絶対にやめましょう。綿棒の繊維は意外と硬く、こするだけで炎症の原因になります。綿棒を使うのは、耳のヒダ(複雑な溝)の汚れをちょこちょこと拭うときだけに限定してください。
水を使うと、L字型の耳の奥に水分が残り続け、湿度を上げて雑菌の繁殖(培養)を手助けすることになります。真水は浸透圧の関係で皮膚への刺激にもなります。精製水も水と同様ですので、こちらも使用しないようにしてください。
また、アルコール消毒も刺激が強すぎるため、炎症を起こしている耳には絶対に使わないでください。アルコールを含まないウェットティッシュやおしりふきを使用する場合は、なるべく皮膚に物理的な刺激がかからないように、こすらず優しく使用することをおすすめします。
掃除しているつもりが、耳垢を奥へ奥へと押し固めて耳垢栓(じこうせん)を作ってしまいます。
犬が急に動いた拍子に、耳内部の粘膜を傷つけたり、鼓膜を損傷したりする可能性があります。後述の「耳掃除を嫌がる犬の対処法」を参考に練習からはじめてみましょう。

自宅でのケアには限界があります。日常のチェックや耳掃除をしようとしたときに次のようなサインが見られたら、すでに病気(外耳炎など)になっている可能性があります。
これらはすべて、外耳炎の初期〜進行期の症状です。特に痛みがある場合、自宅での洗浄液の使用自体が刺激になり、症状を悪化させる恐れがあります(鼓膜が破れている可能性もあるため)。
痛がるときは、無理に掃除をせず、すぐにストップしてください。
毎日掃除しているのに、翌日には黒い耳垢がべっとり溜まっているような場合も要注意です。
これらは、いくら洗浄しても原因を取り除かない限り治りません。こじらせて慢性化させる原因になります。
上記の症状に加え、「首を傾げ続けている(斜頸)」「目が揺れている(眼振)」といった神経症状が見られる場合は、炎症が耳の奥(中耳・内耳)にまで及んでいる可能性があります。
一刻も早く獣医師の診察を受けてください。

無理やり押さえつけて行うケアは、犬にとっても飼い主さんにとってもストレスでしかありません。少しずつ慣らしていくことが大切です。
犬が暴れるのは「痛いから(外耳炎になっている)」か「怖いから(過去のトラウマ)」のどちらかです。まずは、耳が赤くないか確認しましょう。
もし赤くて痛がっているなら、しつけの問題ではなく治療が必要な状態です。無理に触らず動物病院へ行きましょう。
耳が健康なのに嫌がる場合は、焦らず次に紹介する「慣れる練習=脱感作(だつかんさ)」を行います。
「耳掃除は嫌なこと」というイメージを、「耳掃除=おやつがもらえる最高な時間」へと書き換えます。
耳をめくって中を見たらすぐにおやつをあげ、「いい子だね〜」と高い声で褒めます。
乾いたコットンで耳の入り口をサッと拭き、すぐにおやつを与えます。
クリーナーのボトルを見せて、おやつを与えます。
一気にやろうとせず、スモールステップを重ねるのがコツです。
耳に洗浄液を入れることを嫌がる場合は、以下の方法を試してみてください。
コットンに洗浄液をたっぷり染み込ませて耳の入り口で絞るようにして液を垂らします。耳に直接液体を注ぐのではないため、ボトルの先が耳に近づく恐怖を和らげることができます。
冷たい液体が耳に入るのは人間でも不快です。ボトルを人肌程度に温めてから使うと、驚きが少なくなります。
それでも本気で噛みついてきたりパニックになったりする場合は、無理せず動物病院やプロのトリマーさんにお任せしましょう。プロは保定(動かないようにする技術)のプロでもあります。
犬の耳掃除について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
以下のポイントをおさらいし、今日から散歩の後、ブラッシングのついでに愛犬の耳をめくって、チェックしてあげてください。
それが、飼い主さんができる最高の予防医療です。
もっとも大切なのは、「完璧に掃除すること」ではなく、「愛犬の耳の“いつもの状態”を知っておくこと」です。健康な耳の色、匂い、耳垢の量を知っているからこそ、微細な変化に気づくことができます。
医学的根拠のないケアは非常に危険です。「赤み」「臭い」「痒み」の3大サインが見られたら、自宅でなんとかしようとせず、早めに動物病院を受診してください。早期発見であれば、点耳薬だけで数日で治ることも多いです。
耳の汚れが、実は食物アレルギーの最初のサインだったり、甲状腺機能低下症などのホルモン異常の現れだったりすることもあります。耳のケアを通じて愛犬の体調変化に気づくことは、結果として愛犬の全身の健康を守り、寿命を延ばすことにもつながります。
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