
猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)は意外にもとても身近に存在しており、室内飼育の猫でも、何かのきっかけでエイズにかかることがあります。猫エイズは一度発症すると完治が難しい病気です。愛猫を守るために、飼い主さんが知っておくべき猫エイズの知識をまとめて解説します。
もくじ

猫エイズは正式には、猫免疫不全ウイルス(FIV:Feline Immunodeficiency Virus)と言い、レトロウイルス科レンチウイルス属というグループに属しています。
猫エイズに感染するとウイルスが体のなかに組み込まれ、体から取り除くことは困難になります。そのため、一度感染した猫は、生涯ウイルスを保有することになってしまいます。
現時点では、進行を抑える薬はないため、主な予防方法としては猫エイズに感染した猫との接触を避けることが大切です。
猫エイズに感染すると、最初は発熱やリンパ節の腫れなどの症状がみられます。しばらくすると自然に治り、猫エイズキャリアと呼ばれる無症状の状態が続きます。進行するとエイズ関連症候群やエイズ期(AIDS期)という状態に進行します。
エイズ期になると自分の免疫が弱くなります。普通ではかからないような病気に感染しやすくなったり、エイズに関連したさまざまな病気になりやすくなったりします。
エイズと聞くとどうしても人間のエイズを想像してしまいますが、猫エイズは猫のみに感染するもので、猫から人に感染することはありません。

猫エイズのウイルス自体はあまり強くなく、紫外線、熱、消毒薬などで簡単に壊れます。
感染ルートとしては、エイズに感染している猫から直接うつされてしまうことがほとんどです。感染した猫との喧嘩で生じた咬み傷、交尾、グルーミング(唾液を介して)、輸血などによって感染が成立します。
日本国内で屋外飼育されている猫の23.1%が猫エイズ陽性という報告もあります。

猫エイズに感染すると寿命が著しく短くなるかというと、そうではありません。猫エイズの寿命についての報告はさまざまです。
予後が悪く、猫エイズ発症後、数か月以内に亡くなってしまうことがある一方、エイズに感染していても発症せず、寿命を全うする猫も多くいます。
エイズの発症を遅らせる有効な手立ては確立されていませんが、無症候性キャリア期のままステージが進行しない猫も多くいるのです。

猫エイズは進行度合いによって5つのステージに分類されます。
発熱やリンパ節の腫れといった症状が認められます。飼い主さんが気づかないことも多く、症状も自然になくなっていくことも多いです。
症状はほぼ示さず、猫も普通に生活をしています。この期間は数か月〜数年とさまざまで、無症候性キャリア期のまま天寿を全うすることもあります。
突然複数のリンパ節が腫れてきます。発熱や元気がなくなる、食欲不振などの症状がみられます。症状自体は軽いことも多く、リンパ節もすぐに小さくなるため診断が難しいことも多いです。
その後に続く、エイズ関連症候群やエイズ期の予兆として捉えることができます。
エイズウイルスの量が増加し体の免疫力が低下、普通では感染しない病気に感染します。これを日和見感染(ひよりみかんせん)といいます。具体的には口内炎や歯肉炎、上部気道炎(鼻、喉など)、皮膚炎になりやすくなります。
エイズ期は猫エイズの末期ともいえる状態です。エイズ関連症候群よりさらにエイズウイルスの量が増加し、免疫不全に陥ります。
このステージになると、慢性的な感染に加えさまざまな病気を併発することがあります。

エイズ期に進行すると、さまざまな臓器がダメージを受けます。代表的なものに腎不全、血球減少、神経症状、腫瘍などがあります。
猫エイズの感染によって慢性的な炎症が生じ、体の中に本来不要なものがたまってきます。その代表的なものが、ウイルスと抗体がくっついた抗原抗体複合体です。
腎臓は、体内の不要なものがたまりやすい場所のひとつ。いらないもので腎臓の機能が障害され、最終的に腎不全になります。
血液の中には、酸素を運ぶ赤血球、免疫の主役となる白血球、血を止める機能をもつ血小板があり、これらの細胞は主に骨髄の中で作られています。
猫エイズウイルスが骨髄に感染すると、血液中の細胞がうまく増殖できなくなります。
赤血球が減少すると貧血がおこり、酸素を体の中でうまく運べなくなります。白血球が減少すると免疫力が著しく低下し、血小板が減少すると出血しやすい状態になります。
猫エイズウイルスは、脳や神経細胞にも感染し炎症を引き起こします。失明、聴覚障害、歩行の異常、痙攣、麻痺、てんかん発作などの症状を引き起こすことがあります。
免疫は外から入ってきた病原体をやっつけるだけでなく、体の中にできた腫瘍を攻撃する役割ももっています。これを腫瘍免疫といいます。
エイズの感染により免疫力が低下すると腫瘍免疫も低下し、腫瘍が増殖しやすくなります。猫エイズにおいては、リンパ腫が発生しやすいといわれています。

愛猫をエイズから守るために、一番大事なことは外に出さないことです。猫エイズは身近な病気で、日本国内の屋外飼育猫の23.1%が猫エイズ陽性という報告もあります(1)。
猫エイズは感染した猫との直接接触で感染するため、感染した猫との直接接触を避ければ、感染する可能性は低いといえます。新しい猫を迎える際は、エイズの検査を受けて陰性であることを確認してください。
ただし、感染の機会から2か月以上経ってからの検査でないと不十分です。もともと野良猫だった保護猫を迎える場合は、タイミングに注意しましょう。
猫エイズへの感染を予防するワクチンとして、フェロバックスFIVが発売されていました。猫エイズに対して国内で唯一使えるワクチンでしたが、現在(2026年1月)終売になっており、日本国内で猫エイズのワクチンの接種は難しくなっています。
また、フェロバックスは接種できたとしても予防率が100%ではなく、ワクチンを接種していても感染する可能性があります。接種後は抗体検査が陽性になってしまうため、猫エイズの検査をする際は注意が必要です。
このような背景からも、猫エイズはワクチンを接種するより、感染猫に近づかないよう予防することが重要です。

猫エイズには、血液検査(抗体検査)を行うのが一般的です。検査自体は採血のみなので、そこまで猫に負担はかかりません。しかし、抗体検査にはいくつか注意点があります。
感染から2か月以内では抗体が十分に作られておらず、検査に引っかからないこともあります。つまり感染していても、陰性という結果になってしまいます。
移行抗体とは、エイズの抗体をもっている母親から、その抗体を子猫が受け継ぐことをいいます。 幼い猫(生後1~6か月)では移行抗体があると、エイズに感染していなくても陽性と出ることがあります。
移行抗体は生後6か月くらいには消失するので、それ以降に検査することをおすすめします。

猫エイズは一度感染すると治すことが難しい病気です。そのため、感染しないよう予防をし、猫エイズと診断されたらほかの猫に感染を広げないようにすることが重要です。人間には感染しないので、その点については心配せずに過ごして大丈夫です。
猫エイズと診断された猫はほかの猫との直接接触は避け、生涯にわたり別々にすごしてもらうことになります。多頭飼育の場合は、隔離してから2か月経過した時点で、同居の猫すべてにエイズ検査を受けさせてください。
感染の機会があってから2か月以上経過しないと、検査が不十分になることがあるためです。
猫エイズウイルス自体は、環境中ではそこまで長く生きませんが、唾液には注意が必要です。ほかの猫と食器を分け、界面活性剤やアルコール、塩素、熱湯などの消毒も活用しましょう。
猫エイズと診断された場合、加入できないペット保険が多いです。
一部のペット保険では、加入が可能としているものもあるため、愛猫が猫エイズと診断されたけれども、保険に入りたい場合は各社の加入条件を確認するとよいでしょう。
なお、ペット&ファミリー損保のペット保険「げんきナンバーわんスリム」は、猫エイズと診断された場合加入することはできませんが、加入後に万が一感染・発症した場合の治療費は補償対象となります。
ペット保険の詳細は、WEBサイトをご確認ください。
猫エイズは感染している猫との直接接触で感染し、猫エイズに感染すると徐々にステージが進行して最終的にエイズを発症します。
感染した場合に進行を抑える薬はなく、エイズ期に進行後数か月以内に亡くなることもありますが、無症候性キャリア期のまま生涯を終える猫もいます。
日本では現在、ワクチン接種が難しいため、感染している猫に近づかないことが重要です。
参考文献
(1)C. Power, R. Buist, J. B. Johnston, et al (1988) : Neurovirulence in Feline Immunodeficiency Virus-Infected Neonatal Cats Is Viral Strain Specific and Dependent on Systemic Immune Suppression
画像素材:PIXTA