【獣医師監修】犬の貧血の原因と治療について。知っておきたいポイント
2023.08.01 作成

【獣医師監修】犬の貧血の原因と治療について。知っておきたいポイント

獣医師/ペット栄養管理士

岩切裕布

岩切裕布

犬が、人のように貧血でフラフラしたり立ち眩みを起こしたりすることは、めったに起こりません。よほどの貧血がない限り症状は出ないため、検査によって貧血であると判明することが多くあります。また、貧血の原因となる病気の多くは、重い病気であることが多いため注意が必要です。貧血の原因や病気、治療方法などを知っておきましょう。

もくじ

    犬の貧血とは

    【獣医師監修】犬の貧血の原因と治療について。知っておきたいポイント
    (hedgehog94/shutterstock)

    犬も人も、貧血の定義は変わらず末梢血液中の赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値が、正常よりも減少した状態を指します。

    赤血球(RBC)
    酸素を運ぶ役割を担う細胞です。血液の色が赤いのは、赤血球に含まれるヘモグロビンによるもの。赤血球は、常に体の中で作られては壊されてを繰り返しています。

    ヘモグロビン(Hb)
    赤血球に含まれる赤い色をしたタンパク質のこと。ヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」とタンパク質である「グロビン」からできており、「ヘム」は酸素と強く結びつき全身へ酸素を運搬する役割を担っています。

    ヘマトクリット値(Ht)
    血液を遠心分離し、赤血球とほかの成分を分離したときの赤血球の割合を指します。

    厳密には異なりますが「PCV(packed cell volume, 赤血球容積比)」とほぼ同義であるため、血液検査の結果用紙には「PCV」と書かれていることもあります。

    貧血の原因

    貧血の原因は、大きく次の3つに分けられます。

    • 産生低下(作ることができなくなる)
    • 破壊(壊されて減る)
    • 喪失(体から出ていく)

    これらは、さまざまな疾患によって引き起こされます。

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    犬の貧血の判断

    犬の貧血の判断
    (Azan-el-azan/shutterstock)

    ピンク色のはずの粘膜が白くなっている場合、貧血の可能性があるため注意が必要です。

    普段から定期的に可視粘膜(口の中の粘膜)を見ておくことで、「貧血を起こしているかもしれない」と察知できることもあります。しかし、よほど貧血が進んでいない限り見た目では判断がつきません。

    さらに、色素沈着が多い犬は判断が難しかったり、シャーペイやチャウチャウのようにもともと舌が青い犬はそもそも判断できなかったりします。

    日光や照明の具合によって可視粘膜の色の具合が異なって見えることもあり、可視粘膜の色だけで判断することはできません。

    犬の貧血の症状

    犬の貧血も人と同じく、元気がなくなったりフラフラしたりするといった症状が表れます。

    しかし、そのほかの病気でも同じような症状は起こり得るため、こういった症状だけで判断をすることはできません。

    犬の貧血の判断

    犬の貧血は、血液検査のCBC(complete blood count、全血球計算)で判断します。

    健康診断では必ずといっていいほど測定する項目の中に含まれているため、日頃から定期的に健康診断を行うことが大切です。

    犬の貧血を引き起こす病気

    犬の貧血を引き起こす病気
    (el-ka/shutterstock)

    出血

    交通事故などの外傷や目に見える腫瘍などから、持続的に血が流れ出ることだけでなく、体の中で血管が壊れて出血することで、貧血を引き起こします。

    また、便に血が混じることで貧血を起こすこともあります。便はもともと濃い色をしており、少量の出血が持続的に続いている場合は、見た目では判断がつかないこともあります。

    しかし、胃や小腸から一度に大量の出血があれば便は真っ黒くなり(黒色便)、肛門に近い部分で出血すれば赤色で見えます。

    中毒

    犬や猫の場合、タマネギやニラ、ニンニクを摂取すると、そこに含まれる有機硫化硫黄化合物によって赤血球の膜が酸化障害を起こし、赤血球が破壊されます。これを溶血といいます。

    溶血によって引き起こされる貧血を溶血性貧血といい、壊された赤血球の成分によって眼球が黄色くなったり(黄疸)、褐色尿になったりするといった症状が出現します。

    腎臓病

    赤血球は、腎臓から出るエリスロポエチンという造血因子に応答し、骨髄で作られます。腎臓病になると、このエリスロポエチンの量が減り、赤血球を作らなくなることで貧血を起こします。

    そのため、貧血傾向のある腎臓病の犬には、外部から定期的にエリスロポエチンの代わりとなる注射を打ち、骨髄に造血を促すことで、貧血の改善を試みます。

    免疫介在性溶血性貧血(IMHA)

    本来は、病原体から自分の体を守ってくれる免疫が、自分の赤血球を標的として壊してしまう病気です。一般的にはステロイドや免疫抑制剤が使用されます。

    急性のIMHAは死亡率の高い病気のため、迅速に治療を受けることが大切です。

    鉄欠乏性貧血

    鉄の摂取不足や、体内での鉄分消費量増加によって鉄が不足すると、貧血が起こります。

    人が鉄剤(鉄不足を補う薬)を摂取するのは、鉄欠乏性貧血の予防のため。鉄不足が原因でない貧血に対して鉄を与えても、十分に鉄があることで体が利用しやすくなることはあっても、根本的な解決にはなりません。

    犬は、栄養バランスの整った総合栄養食を摂取している限りは、人のように摂取不足で鉄が不足するということはないため、普段から鉄剤を摂取する必要はありません。

    バベシア症

    赤血球に寄生するバベシア原虫(主にBabesia gibsoni)によって赤血球が壊され、貧血を起こします。

    バベシアはマダニの体の中に潜んでいて、マダニの吸血とともに犬に感染します。西日本で多く発生しており、近年では東日本でも報告されています。

    Babesia gibsoniの場合、潜伏期間は2~4週間で、急性期には、発熱、食欲不振、抑うつ状態、粘膜が白くなるなどの症状が起こります。

    ノミによる貧血

    ノミが大量に寄生すると、吸血によって血が失われ、貧血を起こすことがあります。

    ノミは瓜実条虫(サナダ虫)などの寄生虫の感染源にもなるため、定期的な予防薬を使用してノミの寄生を防ぐことが大切です。

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    まとめ

    まとめ
    (Prostock-studio/shutterstock)

    貧血といっても原因は多岐にわたり、その原因によって治療法は大きく異なります。よほどのことがない限り、見た目で貧血を判断することは難しいため、定期的な健康診断で早期発見に努めましょう。

    著者・監修者

    岩切裕布

    獣医師/ペット栄養管理士

    岩切裕布

    プロフィール詳細

    所属 yourmother合同会社 代表
    (獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」の運営)


    日本ペット栄養学会
    日本小動物歯科研究会
    日本獣医腎泌尿器学会

    略歴 1987年 東京都に生まれる
    2005年 麻布大学 獣医学部獣医学科に入学
    2011年 獣医師国家資格取得
    2011年~2016年 都内動物病院に勤務
    2017年~2018年 フードメーカー勤務
    2018年~ DC one dish 設立
    2020年~ yourmother合同会社 設立

    資格 獣医師免許
    ペット栄養管理士

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