【獣医師監修】犬のガンの原因は?飼い主さんが気をつけることを知ろう
2023.05.01 作成

【獣医師監修】犬のガンの原因は?飼い主さんが気をつけることを知ろう

獣医師

小林巧

小林巧

獣医療の発展にともない、犬の平均寿命は延びています。そんな中、犬の死因として上位に挙げられるのが悪性腫瘍(ガン)です。どうすれば愛犬のガンを未然に防ぐ、もしくは早期発見や治療ができるでしょうか。ガンのリスクや初期症状を知り、より長く愛犬と一緒に過ごすためにできることを考えてみましょう。

もくじ

    犬の平均寿命とその死因は?

    【獣医師監修】犬のガンの原因は?飼い主さんが気をつけることを知ろう
    (evrymmnt/shutterstock)

    一般社団法人ペットフード協会の調査によると、2021年の犬の平均寿命は14.65歳。2010年は13.87歳であったことから、この10年間で1歳近く延びていることがわかります。

    犬の寿命が延びた理由として、獣医療の進歩や飼い主さんの意識の変化による予防の徹底や病気の早期発見などが挙げられるでしょう。

    今後もさらに長寿化していく可能性が考えられます。パートナーである愛犬の命を預かるということを忘れず、責任を持って面倒をみていきましょう。

    犬の3大死因

    • 悪性腫瘍(ガン)
    • 心臓病
    • 腎臓病

    犬の死因として上位に挙げられるのが、上記の3つです。この3つは犬の3大死因といわれています。

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    犬のガンの原因、なりやすい犬種

    犬のガンの原因、なりやすい犬種
    (Jaromir Chalabala/shutterstock)

    ガンの原因

    一般的にガンとは、転移を起こす悪性腫瘍のことを指します。正常な組織には適切な細胞数を保つ機構が存在しますが、遺伝子の変異などによりこの恒常性(こうじょうせい)が失われ、細胞がガン化して増殖し続けます。

    細胞のガン化に大きく関わっているのが、ガン遺伝子とガン抑制遺伝子です。ガン遺伝子に変異が起きることで細胞の増殖が活性化され、際限なく細胞増殖を引き起こします。

    一方でガン抑制遺伝子は、細胞の増殖を抑制したり、細胞のDNAに生じた傷を修復したり、細胞にアポトーシス(プログラム化された細胞の死)を誘導するなどして異常細胞が際限なく増殖するのを防ぐ役割をしています。

    ガン遺伝子はアクセル、ガン抑制遺伝子はブレーキにたとえられることが多く、遺伝子の変異によりアクセルが踏まれたままの状態になる、もしくはブレーキが効かなくなると細胞のガン化が進みます。

    人の場合、喫煙や飲酒、紫外線といった外的要因が遺伝子変異の原因として挙げられます。また、肥満やストレス、食生活などによってもガンの発症リスクが上がるとされています。

    犬ではまだはっきりとわかっていませんが、人と同様に考えられており、食生活や運動などの生活習慣を工夫することでガンの発症リスクを下げられると考えられています。

    ガンになりやすい犬種

    一般的に小型犬よりもゴールデン・レトリバーなどの大型犬のほうがガンになりやすいといわれていますが、小型犬や中型犬では「ミニチュア・ダックスフンド」「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」「パグ」「フレンチブルドック」などが挙げらます。

    参考までに代表的な犬種で多いガンを下記の表に示します。

    犬種発生するガンの例
    ミニチュア・ダックスフンド副腎腫瘍、血管肉腫、乳腺腫瘍 肥満細胞種、メラノーマなど
    ウェルシュ・コーギー・ペンブロークリンパ腫、血管肉腫、乳腺腫瘍など
    ゴールデン・レトリバー線維肉腫、血管肉腫、組織球性肉腫 肥満細胞種、骨肉腫、メラノーマなど

    犬のガンの初期症状

    犬のガンの初期症状
    (Siberian Art/shutterstock)

    犬のガンの初期症状は、ガンが発生する臓器によって異なります。皮膚にできるガンの場合、常に体に触れていることで気づけるかもしれませんが、体内にできるガンの場合は、体を触るだけで見つけることは難しいでしょう。

    あくまでも一例ですが、それぞれの臓器で出てくる症状を表にまとめたのでおうちでもチェックしてあげてください。

    脳・神経の腫瘍・フラつきやぼーっとすることが増える
    ・てんかん発作が起こる
    ・性格が変わる など
    眼の腫瘍・瞼(まぶた)にしこりができる
    ・目が赤くなる
    ・眼球の大きさに左右差が出てくる など
    呼吸器の腫瘍・くしゃみや咳が出る
    ・鼻血が出る
    ・息が荒い など
    消化管の腫瘍・嘔吐
    ・下痢
    ・血便
    ・食欲不振
    ・体重減少 など
    泌尿器の腫瘍・血尿
    ・何度もトイレに行く など
    口腔内の腫瘍・歯茎にしこりができる
    ・口の中の匂いが気になる
    ・口の中で出血している
    ・食事を食べづらそうにする など
    骨の腫瘍・足を痛そうにする
    ・足を引きずる
    ・歩きたがらない など
    皮膚の腫瘍(耳)・皮膚に赤みがある
    ・しこりが触れる
    ・耳を気にする
    ・耳から分泌液が出る
    ・耳や頭を振る など

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    犬のガンの治療方法

    犬のガンの治療方法
    (Jaromir Chalabala /shutterstock)

    一般的にガンの治療法として挙げられるのは「外科療法」「化学療法」「放射線療法」の3つです。それぞれ、次のようなメリット・デメリットがあります。

    外科療法 (局所療法)【メリット】
    ・短時間で病変を取り除ける
    ・腫瘍が限局していれば根治が可能
    ・細胞毒性や発がん性などはない
    【デメリット】
    ・全身麻酔が必要
    ・腫瘍の発生部位によっては術後に機能不全が生じる
    ・全身性、播種性、転移などをしていると根治的な治療にならない
    化学療法 (全身療法)【メリット】
    ・転移している状態でも使用できる
    ・遠隔転移を阻止、または遅延させることも可能
    【デメリット】
    ・副作用がある
    放射線療法 (局所療法)【メリット】
    ・機能や形態を温存しながら、腫瘍を制御できる
    ・外科手術との併用が可能
    【デメリット】
    ・放射線障害が生じる
    ・実施できる施設が限られている
    ・全身性、播種性、転移などをしていると根治的な治療にならない

    犬のガン治療を選択する際のポイント

    犬のガン治療を選択する際のポイント
    (New Africa /shutterstock)

    治療の目的を考える

    メリット・デメリットを踏まえた上で、まず考えるのは治療の目的です。

    • 根治治療:腫瘍の根絶が目的、治る可能性に賭けてQOL(生活の質)の若干の低下も許容する
    • 緩和治療:QOLの向上・維持が目的、腫瘍増殖をできるだけコントロールする
    • 対症治療:QOLの向上のみが目的、腫瘍に対する治療はなし

    ガンの種類によっては、根治できなかったり、治療によって病勢の悪化や生体へ悪影響を及ぼしたりすることもあります。

    ガンの種類とステージ分類を把握する

    ガンの治療をしていく上で特に大切なのが、ガンの種類と臨床ステージ分類です。臨床ステージ分類はⅠ〜Ⅳ(ガンによってはⅤ)に分類され、数字が大きくなるほどガンが進行した状態であることを意味します。

    臨床ステージ分類で、すでに遠隔転移が起きているようなステージⅣのガンでは、根治治療が難しく緩和治療が選択されることになります。

    愛犬の状態も考慮する

    愛犬の状態も考慮しなければなりません。高齢でほかにも病気を抱えているような子は、全身麻酔をかけての外科療法や放射線療法は負担やリスクが大きくなってしまいます。

    • 愛犬側の要因(腫瘍の状態、健康状態)
    • 獣医師側の要因(設備や技術的な問題)
    • 飼い主側の要因(経済的な制限、時間的な制限)

    などを照らし合わせ、獣医師の先生とよく相談をして、治療方針を決める必要があります。

    一般的にガンの手術費用は高額になることが多いですが、抗がん剤による治療も通院が長く、最終的には同程度の金額がかかることがあります。

    もしもの時のために保険に加入したり、貯蓄をしたりしておくと治療の選択肢が広がるかもしれません。

    定期的な健康診断のススメ

    定期的な健康診断のススメ
    (danilobiancalana/shutterstock)

    愛犬がガンにならないよう、食事や生活習慣に気をつけてあげることが大切ですが、人と同じようにガンの予防は難しいです。末期のガンですでにほかの臓器へ転移しているような状態では、治療すら難しいことも多いです。

    早期発見・早期治療のために、かかりつけの動物病院で定期的に健康診断を受けることをおすすめします。

    最近では、愛犬の血液検査をする飼い主さんも増えているように感じますが、高齢になってきたらX線検査や超音波検査などの画像検査も受けるとよいでしょう。

    人とは違い、動物の医療では一部を除いてガンマーカーの実用化が進んでいません。画像検査を実施して初めて見つかる病気もたくさんあります。

    最近では、「人間ドック」ならぬ「DOG DOC」として通常よりも安価な料金で健康診断を実施してくれる動物病院も増えています。

    シニアの仲間入りをする7歳を過ぎたら定期的に健康診断を受け、愛犬の健康状態を把握して病気の早期発見に努めましょう。

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    参照元:
    一般社団法人ペットフード協会「令和3年(2021年)全国犬猫実態調査(主要指標サマリー)」(2022/9/26閲覧)
    国立研究開発法人国立がん研究センター「がん情報サービス」(2022.09.26閲覧)
    OFA-THE CANINE HEALTH INFORMATION CENTER「GOLDEN RETRIEVER」「 PEMBROKE WELSH CORGI」(2022.09.26閲覧)
    Gough A, Thomas A, OʼNeill DG : Dachshund, Breed predispositions to disease in dogs and cats, Third edition, 69, John Wiley & Sons, Hoboken (2018)
    日本獣医がん学会(2019)「獣医腫瘍学テキスト第2版」株式会社ファームプレス

    著者・監修者

    小林巧

    獣医師

    小林巧

    プロフィール詳細

    所属 しょう動物病院(Sho Animal Clinic)
    日本獣医麻酔外科学会
    日本獣医がん学会

    略歴 1989年 静岡県浜松市に生まれる
    2008年 宮崎大学農学部獣医学科に入学
    2014年 獣医師国家資格取得
    2014年 東京都内の動物病院に勤務
    2018年 埼玉県内の動物病院に勤務
    2022年 しょう動物病院(Sho Animal Clinic)に勤務

    資格 獣医師免許

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