ふわふわの毛で、可愛くしっぽを振る犬。あたたかくて、気持ちのよい手触りに、幸福感を感じる人も多いことでしょう。とはいえ、犬は人間から触られることについて、どう思っているのでしょうか?今回のコラムでは、触られることや、抱っこをされるときの、犬の気持ちを学んでいきましょう。
もくじ
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まず結論から言うと、ほぼすべての犬が、「いつでも触られたい」とは、思っていません。いつでも触りたいという人にとっては、少し悲しいお知らせかもしれませんが、残念ながら、それが現実です。
もしあなたの愛犬が、人間を大好きな性格でいつも愛想が良かったり、近所の犬が愛嬌のある子ばかりの場合は「ワンちゃんがいつでも触られたい動物」のように思われるかもしれません。しかし、犬も人間と同じで、個性があります。その時の状況次第で、触られたいかどうか、犬側にも意見があって当然です。
セラピードッグや盲導犬などをテレビで見ると、いつでも嬉しそうに体を触らせてくれるイメージがあるかもしれません。しかし、彼らは仕事人ならぬ、お仕事犬。普通の家庭犬とは生まれも育ちも違います。お仕事犬は、子犬の時に適性で選抜されて長い時間をかけて英才教育ならぬ、訓練を重ねていくのです。普通の家庭犬ではなく、スーパーエリートなのです。
しかし、そんなエリートのお仕事犬も仕事時間外なら、触られたくない時間だってあります。「愛犬が触ると嫌がることがあります」とか「家族は平気でも、散歩中に他人から触られるのは苦手…」という方も、それが普通の犬の反応なので安心してください。
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犬がどんなときに触られたいのか、どんな時に嫌だと感じるのかを知って、もっともっと愛犬と仲良くなっていきましょう。では、どんなことに注意して、触れば良いのでしょうか。
体の中でも、触られたいところと、苦手なところがあります。例えば、一般的に犬は、足先、頭、しっぽなどの、敏感な体の先端が苦手と言われています。日本では、犬の頭をなでがちですが、海外の児童書などには、「犬の頭ではなく胸元を優しくなでましょう」などと書かれています。
過去に怪我をした部分や、嫌な思い出がある体の部位などは、触られるのが苦手な場合もあります。犬ごとに、触れられるのが好きな部位と苦手な部位があると知っておきましょう。
触)方にも好き嫌いがあります。例えば、ガシガシ触られることが得意な子もいれば、ソフトタッチが好みの子もいます。飼い主さん側がしたい触り方ではなく、愛犬側がどんな触り方をして欲しそうなのか反応を見ながら、探っていきましょう。
触られることが嫌いではない子も「今は触らないで!」という時があります。例えば、寝ている時に急に触られたらびっくりしますよね。ご飯を集中して食べているときなども、避けるべきでしょう。愛犬側も邪魔されると気分を害してしまいます。
皆さんも、触られたい相手と、絶対に嫌な相手がいますよね。犬も「家族は平気だけど、他人はダメ」とか、特定の人がダメということがあります。犬も触る相手に対して、“お好み”があるのです。
「触られること=良いこと」と感じる機会が積み重なれば、犬は触られることが好きになっていくでしょう。その逆で、「触られること=嫌なこと」の記憶が重なれば、苦手になるでしょう。例えば、触られる度に、爪切り、病院で注射などの経験が続く。日常でも、触り方が悪かったり、不快なことが積み重なれば、その人に触れられるのは嫌がられてしまうことでしょう。
言われてみれば当然かも、と思うことばかりではないでしょうか。先入観で、「犬なのだから、触られて喜ぶはずだ!」と思っていると、心にすれ違いが生まれてしまいます。犬の心も、私達人間の心と同じように考えていくと、自然にもっと仲良くなれるでしょう。
犬は、心優しき平和主義者。なるべく人間と争いたくないので、我慢して触らせてくれるケースもよくあります。体を後ろに引く、口をくちゃくちゃする、あくびをする、体をブルブルっと震わせるなどの様々なストレスサインが出ている場合は触るのを控えてあげましょう。
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私たち人間は、生き物を抱きしめたくなる習性があります。悪気はなくとも、人間の赤ちゃんのように犬を抱きしめたくなるのもこのためです。しかし、ほとんどの動物は、抱きしめられることで、捕獲される恐怖を感じます。犬も、実ははじめから抱っこが好きではありません。飼い主さんと愛犬が一緒に暮らしていく中で、抱っこが良いものだと感じる経験が増えれば、「抱っこ好きな愛犬」になっていくのです。
子犬の時に参加するパピークラスでも、まずトレーニングをするのが、抱っこの仕方。抱っこは、犬に慣れてもらう練習も必要ですが、抱っこをする側の技術がとても大切です。
例えば、嫌われる抱っこの仕方で、「逆バンジージャンプ抱っこ」があります。小型犬などは軽いため、片手でホイッと不安定なまま抱きあげられてしまいます。犬は、地面から飼い主さんの胸元までひとっ飛び。バンジージャンプのようで、とても怖い思いをします。
その他にも、犬の都合を考えず、「飼い主さんが好き勝手なタイミングばかりで抱く」「抱っこ中に他人に無理やりなでられる」「苦手な人に触られる」のようなことが続けあれば、抱っこがトラウマになってしまうこともあります。
体の不調があれば、抱っこをされた時に、体が痛むこともあるため、抱っこが苦手になって当然です。
犬を抱くときには、低い姿勢になり犬をしっかり体にくっつけて、安定させてから立ち上がることがポイントです。抱っこが大好きになるためには、「抱っこされる=良いこと」と関係付ける必要があります。抱っこに嫌な印象を付けないように、抱く時の犬の状況を考えて、抱き方の技術も向上する必要があります。
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触ることや、抱っこに関することで、日常生活に差し障りが出てくるようなら、少しでも早く専門家に相談しましょう。うなったり、攻撃的な行動が出たなら、赤信号です。時間とともに良くなることはありません。
飼い主さんだけでは、状況改善が難しい場合があります。絶対に自己判断で進めようとせずに、獣医さんやプロのドッグトレーナーに相談しましょう。ドッグトレーナーに依頼をする場合も、そのトレーナーが行動修正の豊富な経験を持っているか、学術的、科学的知識をもって動物福祉と動物への倫理に基づいた指導を安全に行える人材かどうか、確認をするようにしましょう。
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始めから、なんでも大好きで、なんでも受け入れてくれる犬はいません。生き物ですから、飼い主さんがやってくれたことに対して、「嬉しいよ、嫌だよ」の感情があるのは当然です。一般家庭の犬が、お仕事犬のように、なんでも完璧に出来るようになる必要はありません。
他の犬ができることを、愛犬に当てはめて、焦る必要もありません。触られることが苦手な体の部位があれば、こつこつトレーニングをしていけば良いのです。家族が体のケアをするときに、触れられない部位があると困りますよね。こういった事には、目を背けずに練習していく必要があります。
しかし、「苦手だけど、今後の生活で必要のないこと。」は、避けてもよいのです。家族なら触れるけれど、散歩で出会う他人には触らせられない犬なら、他人からなでられるのを断ればいいのです。
大切なのは、飼い主さんが愛犬の気持ちをわかるようになること。そして、愛犬の気持ちを理解した上で、生活上困らないような「快適な落としどころ」を探していきましょう。